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2-1. 頸部リンパ節【画像診断随筆】

『リンパ節が腫れた』といえば、なんとなくまずは首元をイメージするのではないだろうか。頸部は服を着ていても普段から露出している部位であり、患者自身が症状を自覚しやすいからではないかと思う。腋窩や鼠径部を普段から露出している人もいるかも知れないが、あまり一般的ではないであろう。

主訴がリンパ節腫脹と聞いた瞬間、脳裏に浮かぶ鑑別疾患の範囲の広さに気が重くなる。炎症性病変、腫瘍の転移、原発性のリンパ増殖性疾患あたりを挙げたはいいが、そこからが問題である。頸部と言っても、耳後部、顎下部から頸部、鎖骨上までいくつかの領域に分かれ、当然それぞれが担う領域は異なる。腫大リンパ節の分布範囲により、責任病巣をある程度推定する必要がある。

これを機に頸部リンパ節の解剖を見直そうと頭頸部領域の癌取扱い規約をいくつか参照したものの、なんと規約によってリンパ節の名称や区分が異なるという残念な状態となっている。今川焼やチューペットのように、地元が違えば名称も違うわけである。例を挙げると、甲状腺周囲に存在するリンパ節は、リンパ節規約では甲状腺前面のものは甲状腺前リンパ節、中甲状腺静脈周囲のものは甲状腺傍リンパ節と呼ばれる。頭頸部癌の規約では両者とも甲状腺前リンパ節、甲状腺癌の規約では両者とも甲状腺周囲リンパ節、食道癌の規約では頸部気管前リンパ節にまとめられる。その領域の専門家であれば正確に名称を知っておく必要があると思うが、日頃から全身を読影している身としては少々荷が重く、できる範囲のところでやっていきたいと思う。一応、画像により頸部リンパ節を系統的に分類したレベルシステムというものは存在する。ちなみに私の地元ではそれぞれ回転焼きとパンちゃん(チューちゃん)と呼ばれている。

幸いなことに、頸部リンパ節は体表からも診察しやすく、一般の臨床医であれば適切な触診と的を射た問診により、ある程度鑑別の目途が立った状態で画像検査に回ってくるはずである。画像診断をする立場としては、臨床医の読みを踏まえた上で、腫脹したリンパ節の性状や分布、関連しそうな病変の有無を評価していく。

リンパ節の腫脹は、大まかに炎症性(反応性)と腫瘍性に分類される。両者の鑑別点として、炎症性腫大ではリンパ門の構造が保たれるということが知られている。避難所を例に考えてみる。炎症が起こると避難者が続々と避難所を訪れる。避難所はだんだん混んでいくが、中の秩序は保たれ、受付や食料の配布など内部の構造や機能は保たれる。一方で腫瘍性の場合、避難所の中に無尽蔵に分裂、増殖する化け物が入り込んだ状態である。周囲の状況とは無関係に、無秩序に分裂、増殖し、避難所は物理的に埋め尽くされる。もはや避難所としての機能は破壊され、避難所からあふれ出した化け物は周りの避難所にも広がっていく・・・。腫瘍細胞が侵入したリンパ節というのはこのくらい混沌としたパニック状態である。

頭頸部のどこに炎症が起きるとどこにリンパ節腫大が生じるか。マッサージでおなじみの、いわゆる『リンパの流れ』である。この辺は画像の教科書にはあまり詳しく載っておらず、内科の教科書の方が詳しい。画像診断するうえで役に立つ場面は限られるが、リンパ節腫大を見た際の読影のモチベーションアップにつながりそうなのでまとめておく。

(図2-1-1, 頸部リンパ節の流れ)

基本的に、頭部では末梢から中枢へと流れる。耳の周囲のリンパ節は、主に耳や頭皮の病変に反応する。顎下部~オトガイ下のリンパ節は、主に口腔内~咽頭、副鼻腔、眼、耳下腺・顎下腺の病変を反映する。頸部リンパ節は、上述の頭頸部領域および甲状腺や頸部食道など頸部領域から幅広くリンパの流れを受ける。鎖骨上リンパ節は、頭頸部領域のほか、左鎖骨上に腹部の癌が胸管から逆行性に転移することがある(ウィルヒョーリンパ節転移)。咽頭後リンパ節(Rouviereリンパ節)は咽頭の後壁にあるリンパ節で、口を開けて喉の真後ろに見える赤くぶつぶつとしたリンパ節である。鼻腔・副鼻腔・鼓室・耳管・扁桃などからのリンパを受ける。上咽頭癌のリンパ節転移先として重要である。

炎症性、腫瘍性含め、頸部の多発リンパ節腫大(多発頸部腫瘤)の鑑別疾患を、頻度特異度表で示す。頻度特異度表の見方や解説は別項を参照していただきたい。

(図2-1-2, 頸部の多発リンパ節腫大(多発頸部腫瘤)の鑑別疾患)

化膿性(細菌性)リンパ節炎は腫大や疼痛が目立つ一方、ウイルス性リンパ節炎は腫脹や疼痛が軽度である。結核性リンパ節炎は、通常無痛性で、典型的には中心部の低吸収と増強効果を伴う厚く不整な壁を持つ。内部壊死の割に周囲の炎症の波及が弱い。木村病と菊池病はどちらも日本人の名前のついた頸部リンパ節腫大であり、画像のみならず組織学的にもどっちがどっちかわからなくなる病変である。木村病は良性で緩徐進行、無痛性。アジア人に多い。LN内の好酸球浸潤が特徴。菊池病(菊池・藤本病)は組織球性壊死性リンパ節炎と呼ばれる。こっちもアジア人に多く、木村病との鑑別には使えない。発熱後に頸部を含めた全身の急速な有痛性LN腫大を来す。組織でLN内に多数の核崩壊物を伴う壊死巣を認める。他、炎症性のリンパ節腫大として伝染性単核球症(EBV関連、全身のLN腫大、肝脾腫)、川崎病(大部分が4歳以下だが10代での発症もある、片側頸部に集簇性のリンパ節腫大、周囲への波及あり、咽後間隙の蜂窩織炎)、Rosai-Dorfman病(発熱と巨大で無痛性の両側性LN腫大。LN内での組織球増殖、大型組織球内部にリンパ球や血球成分が取り込まれる(emperipolesis)。皮膚や諸臓器にも組織球が浸潤) リンパ増殖性病変では、悪性リンパ腫のほか、移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)はWaldeyer咽頭輪、頸部リンパ節に多く、眼窩や副鼻腔にも発生する。内部壊死を伴うのが特徴。MTX関連リンパ増殖性疾患はEBVによるB細胞活性化で発生する。組織上は非MTX性のものと判別できず、MTX中止のみで縮小する。他、鑑別に挙がる機会は少ないが副甲状腺過形成も挙がる。2腺以上の腫大で、胸腺過形成のように内部に脂肪が混在するのが特徴である。

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この記事を書いた人

30代医師。放射線画像診断をやりながら病理診断もしています。

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