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頻度・特異度に基づく鑑別診断チャート

画像診断において、所見から確定的な診断がつけられる機会は必ずしも多くなく、その場合は病変の鑑別を挙げることになります。そのためいくつかの施設では、画像診断レポートの診断の欄が、診断ではなくimpressionと表記されていることもあります。

所見を認識した際に適切な鑑別を挙げることは、画像診断において極めて重要です。初学者の場合、まず鑑別を挙げること自体に苦労します。学生時代に覚えたことを思い出し、教科書をめくって、なんとかそれらしい病名をぽつりぽつりと挙げていき、その作業を通じて学んでいきます。画像診断に少し慣れてくると、疾患に関する知識が増え、いくつかの鑑別をスムーズに挙げられるようになります。その際勉強に用いるのは、主に病態別に整理された鑑別一覧で、『炎症性病変として○○と○○が、腫瘍性病変として△△と△△が…』という具合に、病名は挙げられるものの、長々と羅列してしまう傾向にあります。その患者の臨床所見や画像所見に即し、適切な数の鑑別を素早く挙げるには、さらなる学習が必要です。

自分はどうもあの病態別に並べられた表を見るのがあまり好きではなく、見るたびに『こんなに並べられても覚えられない』、『わざわざこの疾患を入れておく必要があるのか』、『この疾患も鑑別に挙がるんじゃないのか』などと思ってしまい、あまり実用したことがありません。

画像所見のパターンに基づき、なおかつ頻度や確からしさが一目でわかるような実用的な鑑別の一覧表があればいいなと常々考えながら勉強してきた結果、頻度特異度表(Frequency-Specificity chart)というものを独自に考案しました。

横軸が頻度、縦軸が特異度の表です。

頻度の目安は4段階、最も高頻度なものは、脳梗塞や肝細胞癌、血管腫など、学生でも知っている疾患です。2番目はレジデントや専門医が大体知っているレベル、3番目は勉強している診断専門医が知っているレベル、4番目は非常に稀で症例報告のレベルというのが目安です。1がcommon、2,3がconference、4がcase reportのトリプルCです。

特異度については、特徴的な画像所見・臨床所見があり、診断の手がかりとなるものを特異性が高いと評価、様々な画像所見を呈し決め手に欠けるものを特異性が低いと評価し、その中間を含めた3段階としています。

画像所見のパターンごとに、鑑別疾患をこの頻度4段階、特異度3段階の計12段階に分類します。高頻度の中で特異度が高いものが1、中特異度が2、低特異度が3、2番目の頻度で高特異度のものが4・・・最も低頻度で低特異度のものが12という順です。

例として、『肝内の単発性多血性腫瘤』の頻度特異度表を挙げてみます。良く見つかるのは海綿状血管腫。頻度もとても高く、画像で辺縁から不均一に強く増強されるという特徴もあり、頻度も特異度も高い1に分類します。肝細胞癌も頻度は最も高いグループですが、画像所見は時々非典型的なことがあり、特異度は中間くらい、2にします。APシャントもいろいろな形態を示し、時に腫瘤様となるので2にします。ちょっと頻度が下がって限局性結節性過形成はそこそこ画像が特徴的なので4、腺腫も同じくらいの頻度で、画像が多彩なのと経口避妊薬が関係するのとトントンで5、肝血管筋脂肪腫は脂肪の存在や肝静脈の早期描出でわかりやすいこともあれば、内部の性状により画像所見が結構多彩なので5、多血性腫瘍の肝転移も病歴と所見がトントンで5、細胆管癌は5、混合型肝細胞癌は6、肝内胆管腺腫は肝表付近の小型病変という特徴から7、硬化型HCCや肉腫様HCCなど特殊型のHCCは8、・・・という具合に、そこまで深く考えずに分類していきます。1-12は目安なので、疾患数の都合で多少のずれが生じます。出来上がった表を見ると、疾患の頻度と特異度に応じた位置に疾患名があり、優先順位にグラデーションがついた状態になっています。

まずは頻度・特異度が高いもの(1,4)から見て、それに合致するかどうか、次いで頻度がまあまあ高いもの(2,3,5,6)や、頻度は低くても特徴的な所見のもの(7,10)はどうか、それでもぴんと来なければ、それ以外のものも考慮します(8,9くらいまで。11,12は状況によって考慮)。

この表を眺めて勉強する際は、まず1-6くらいまでは着実に覚え、スムーズに知識が引き出せるようにしておきたいです。次に、7、10は頻度は低くても知っていれば一発診断できるような、いわばホームランを打てる疾患です。症例検討会などで出題されやすいので、どや顔をするために優先的に覚えておきたいところです。余裕があれば8、9くらいまで、11、12は稀なので眺めるくらいで良いと思います。

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この記事を書いた人

30代医師。放射線画像診断をやりながら病理診断もしています。

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