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3-2. 肺結節【画像診断随筆】

『相手の気持ちになって考える』というのは、患者さんを前に問診しているときだけでなく、画像診断の上でも必要な視点である。この病変ならばこういった進展様式をとるだろうとか、この形態の病変ならこういう性格の疾患なんじゃないだろうかなど、病変の気持ちになって考え、病変に対し想いを馳せて所見をとることで、正しい診断に近づくことが出来る。肺はその構造、柔軟性のため、病変の性質を特に反映しやすい臓器である。

目次

肺結節の評価

偶発的に肺に結節が認められる機会は非常に多い。『○○に○mm大の結節影を認めます。非特異的所見であり、炎症性変化、腫瘍性病変いずれも考えられます。経過観察お願いします。』といった投げっぱなし気味の報告書を書く機会は多く、多少の罪悪感を覚えている。

肺結節についてはサイズや形状に応じた経過観察のガイドラインが発表されており、基本的にはそれに基づいて適切にフォローする。ガイドラインがあるならその通りにやっていればいいのだから簡単じゃないかと思うかもしれないが、実際のところはフォローすべき結節なのかどうかの判断、すなわち腫瘍性病変を疑うべき病変かどうかの判断が意外と難しい。

ガイドラインに沿ったフォローアップについて実際の流れを見ていこう。限局性病変を認めた場合、なにはともあれまずはサイズを見る。6mmが境界となっており、6mm未満は無罪放免(検診CTに戻すと表現する)、6mm以上の結節は、以降のアルゴリズムに則って経過観察が行われる。なお、6mm以上で肺癌を疑う性状を有する病変については、経過観察を行わずにさっさと精査を行う。具体的には、膨張性の形態や辺縁のspicula、胸膜嵌入像、肺門や縦隔のリンパ節腫大などである。

経過観察を行うこととした病変は、性状(solid, part solid, pure GGN)毎の基準でみていくこととなる。充実部のみからなるsolid noduleは他より基準が厳しく、10mm以上は原則確定診断を行うこととなる。

6-10mmのものは、喫煙者と非喫煙者とで異なるフォロー間隔が提唱されている点がユニークである(喫煙者:3,6,12,18,24か月後、非喫煙者:3,12,24か月後)。部分的に充実部があるpart solid、全体がすりガラス陰影のpore GGNでは、15mm以上では確定診断を付けに行く。15mm未満は、part solidは充実部が5mm以上となれば確定診断、5mm以下なら3,12,24か月後のフォローを行う。pure GGNは経過中に2mm以上の増大があれば確定診断を付けに行く。

(図3-2-1 肺結節の経過観察について)

ある程度結節らしい結節であれば、迷うことなく経過観察のアルゴリズムに回せば良いが、問題は『結節らしいかどうか』の判断に迷う場合である。病変の結節らしさについてはいくつかの評価基準があるものの、客観的な指標があるわけではない。腫瘤としていいのかconsolidationなのか迷う病変を見る機会は多く、その病変の形態を丁寧に評価し、腫瘍らしいかどうかを判断する必要がある。そこで重要なのが冒頭の、『相手の気持ちになって考える』ということである。最も重要視するポイントは、膨張性があるかどうかである。病変自体が腫瘍細胞の増殖により外方へ増大する様子をイメージする。風船が張っているように、辺縁が外側へ向かい凸であるかどうか、周辺の構造を圧排する所見があれば腫瘍らしいと判断する。辺縁の性状は腫瘍の種類により異なる。線維性間質を伴う腺癌の場合、内部の線維による収縮性変化と周囲への浸潤により、辺縁にスピキュラを形成する。consolidationが不整形を呈することは多く、区別が難しいと感じるかもしれないが、病変を中心としたスピキュラの有無と膨張性の有無により、ある程度評価ができる。扁平上皮癌、小細胞癌は類円形~分葉状を示すことが多い。他、石灰化や脂肪の存在は良性病変を示唆する所見であるが、必ずしも絶対的指標ではなく、形態を含めて総合的に判断する。

結節状を示す非腫瘍性病変で最も多いのが、肺内リンパ節や陳旧性の肉芽組織などの良性病変である。肺内リンパ節は胸膜直下や葉間胸膜に好発する。辺縁が一部直線状で多角形のこともあるが、solid noduleとしか言いようのない円形結節の場合もあり、なにかしらの活動性炎症があればFDGも多少集積し、そもそも病変が小さければ悪性であってもFDG集積が乏しいこともあり、画像での鑑別には限界がある。肺癌を疑い生検や外科切除がなされた病変がリンパ節だったということはたまに経験する。肺の炎症後に小さな線維化・肉芽組織が生じ、結節状を呈する機会は多く、『陳旧性炎症性変化』や『炎症後の器質化病変』と表現する。膨張性に乏しい辺縁直線状や多形性を示していたり、近傍に線状影や索状影、気管支拡張像が併存して入れば陳旧性炎症を示唆する所見である。画像上は高頻度に認める所見だが、教科書的には触れにくいのか、この点がちゃんと書かれた教科書はあまり見たことがない。今後剖検を行う機会に生前のCTでそれらしい病変があれば、積極的に検索するつもりである。

判断に迷う場合、少なくとも初回からある程度積極的に肺癌を疑う病変と言い難い場合は、まずは短期間(1-2か月程度)での経過観察を行い、経過次第で確定診断か経過観察か無罪放免かを判断する。また、形態的におそらく良性結節と思う病変を初めて見つけた際には、ほぼ確実に良性と言い切れる病変でなければ、念のため経過観察を行ってよいと思う。

肺腫瘍ごとの特徴

いざ肺腫瘍を疑う病変を認めた場合、画像所見から組織型に迫る努力をしたい。原発性肺癌といえば、少し前までは腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、大細胞癌の4種類であったが、WHO第4版以降、大細胞癌が削除されてしまった。小学校の頃に4大工業地帯を習ったが、その後私の地元である北九州がリストラされて3大工業地帯となった時のような物寂しさである。削除されてしまったものはしょうがないので、新分類に気持ちを切り替えて、主な組織型から見ていきたい。なお北九州は、従来の四大工業地帯からは外れたものの、アジアに近い立地を活かし、福岡県や大分県に自動車工場や部品工場が林立する「アジア一体工業地帯」という新たな姿を見せている。

まず腺癌は、内部に線維成分を伴う浸潤性増殖により病変が収縮し、スピキュラや胸膜嵌入像を形成する。収縮性変化を伴う膨張性腫瘍では積極的に疑う。一方で肺胞上皮置換性増殖部は、異型肺胞上皮の肺胞壁に沿った増殖により肺胞の含気が低下し、すりガラス影を示す。肺胞壁が異型細胞によりわずかに厚くなるものから肺胞の間質肥厚を伴うものまであり、すりガラス影の濃度は様々である。腺癌の亜型である浸潤性粘液性腺癌では、粘液基質を豊富に含む腫瘍細胞がそれなりの透過性を示すため、やはりすりガラス影を呈する。内部に気管支透亮像がみられることもあり、多彩で非特異的である。

扁平上皮癌は、古典的には中枢側に2/3、末梢側に1/3程度発生するといわれているが、近年では末梢側発生が増加している。気腫や線維化など既存病変のある所に発生しやすく、修飾により非典型的な腫瘤影を呈さないこともあり注意を要する。辺縁平滑~分葉状が多く、内部は壊死により空洞形成を認めることが多い。また末梢側の気管支の閉塞により末梢の無気肺や肺炎をきたしやすい。

小細胞癌は末梢の境界明瞭な結節として認められる。類円形、浅い切れ込みを有することもある。N/C比の高い細胞の髄様増殖で、遠目に見るとほぼ悪性リンパ腫であり、比較的良好な増強効果を示す。リンパ行性に浸潤しやすく、気管支血管束の肥厚やリンパ節腫大を伴うことが多い。

もちろん、良悪性を含め腫瘤の形態からの組織型の類推には限界があるが、特徴的な所見については積極的に拾い上げるようにしたい。

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この記事を書いた人

30代医師。放射線画像診断をやりながら病理診断もしています。

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