章の終わりに、脳神経領域における偶発所見について、基本的なものからたまに見るくらいのものまでいくつか紹介する。血管の破格と同じく患者の予後に直結することは少ないが、偶発所見の知識により読影に奥行が増し、より良い読影を行うためのモチベーションにつながる。折に触れて知識を仕入れ整理すると良い。
脳表
くも膜顆粒
くも膜が外方に突出した憩室。横静脈洞からS状洞に好発する。中身は脳脊髄液。接する内板は陥凹する。
くも膜嚢胞
およそ1%の頻度でみられる。半数はシルビウス裂内から中頭蓋窩に発生。くも膜顆粒と同じく、ただの液貯留のくせに頭蓋骨の変形(膨隆や菲薄化など)が高率にみられる。雨垂れ石を穿つ。
髄膜腫
れっきとした腫瘍であるが、偶発的に見つかり小さければそのまま様子観察される場合がある。扁平な病変だと時に硬膜下血腫と鑑別を要する。他、脳表・皮質の単発性の腫瘤では神経節膠腫や多形黄色星細胞腫の頻度が高い。必要に応じ精査を進める。
脳室
透明中隔腔、Verga腔、中間帆腔
側脳室間の破格は日常的に頻繁に目にするが、『どれがどれだったかあやふやな病態ランキング』の上位に位置しており、こういう機会に定期的に確認しておきたい。両側の側脳室を隔てる板状構造が透明中隔である。胎児期には開存しているが、透明中隔腔の後部(Verga腔)は生下時には閉鎖、前部も生後3ヶ月までに閉鎖する。前部が開存したものを透明中隔腔(透明中隔嚢胞)と呼び、前部正中でV字型の髄液腔を形成する。後部が開存したものをVerga腔と呼ぶが、Verga腔単独で存在することは非常に稀で、通常は透明中隔腔と併存する。すなわち側脳室体部間が前方から後方までI字型に開いた髄液腔を形成する。普段我々がVerga腔と呼んでいる構造は、厳密には透明中隔腔とVerga腔が合わさった構造である。脳弓と第3脳室、両側視床の間に位置する中間帆槽が拡張し、上前方へ進展したものを中間帆腔と呼ぶ。視床と側脳室三角部の間で三角形の髄液腔を形成する。小児では約3割に認められ、加齢とともに減少する。
(図1-5-1, 透明中隔腔、Verga腔、中間帆腔)
他、脳室内は脳脊髄液の流れのためにFLAIR/T2WIでアーチファクトが生じやすい。局在病変が疑われた場合は他のシークエンスでも再現性をもって病変として認められるかどうかを確認する。
脳実質
脳梁欠損
0.1%程度に見られるらしいが、体感的にはもっと稀に感じる。完全欠損or尾側の部分欠損がある。両側側脳室体部内側面を走行する白質束がProbst’s bundleである。左右差ばかり見ていると気づかない可能性がある。
脈絡裂嚢胞
側脳室下角の下方内側の嚢胞。陳旧性梗塞や血管周囲腔ではない。脈絡叢嚢胞と名前が酷似しており、脈絡裂嚢胞でGoogle検索したつもりが脈絡叢嚢胞のページに案内されることもあり注意が必要である。
松果体嚢胞
MRIで1〜4%程度に認める松果体部の嚢胞。T2WIでは脳脊髄液よりも高信号。小さな松果体細胞腫との鑑別は困難だが、無症状であれば様子観察で良い。
骨病変
正常指圧痕
小児期に時々見られる、頭蓋骨と脳の発育のunbalance による頭蓋骨内板の凹凸菲薄化である。ぱっと見で病的に見えてしまい、骨髄腫やFibrous dysplasia、虐待などを思い浮かべてしまう。病的な頭蓋内圧亢進では縫合線の離開やトルコ鞍の拡大を伴うので鑑別可能である。
前頭骨内板肥厚症
中年以降の女性に好発。前頭骨の内板が対称性に肥厚し、内側には凹凸がみられる。正中部は保たれる。髄膜種による肥厚やFibrous dysplasiaが鑑別。
非対称性錐体尖部骨髄
錐体尖蜂巣の左右差による。蜂巣形成に乏しいと骨髄が存在し、結節状のT1WI高信号を呈し、腫瘍性病変を思わせる所見となる。
頚静脈球高位
頚静脈球の左右差により頚静脈孔の形態に左右差が生じる。頚静脈孔は内頚静脈とともに第9~11脳神経が走行する。時に耳鳴りの原因となる。骨破壊はなく辺縁の骨硬化は明瞭。傍神経節腫や神経鞘腫など頸静脈孔腫瘍と鑑別を要する場合がある。
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