日常診療で頭部CTを撮影する目的として脳卒中病変と並び立つのが頭部外傷である。転んで頭を打った、交通事故で頭をぶつけた等、様々な規模の施設で高齢者から小児まで頭部外傷後の精査のために頭部CTが施行される。
頭部外傷時の頭部CTは、とにかく出血と骨折がないかどうかの評価が全てである。ある程度目立つ出血や骨折があれば診断自体は容易である。その際は出血が硬膜内/外、くも膜下、脳実質内のどの領域まで存在しているかや、骨折の具体的な局在や不安定性の有無が重要となる。
目立つ外傷性変化がない場合、本当に所見がないかを細かく入念に確認する必要がある。大体の場合、頭部外傷のCTでは不安を抱えながら何度かthin slice像を見返すことになる。受傷部位がわかる場合(依頼医はどんなに救急の現場が慌ただしくても受傷部位は記載してほしい)、受傷部位を中心に骨折や出血を探すほか、受傷の衝撃で反対側にも出血を来す場合もあるため注意する。
硬膜下出血、くも膜下出血は微小な病変のこともあり、ぱっと見で出血がない場合であってもthin slice像で入念に確認して然るべきである。
硬膜外血腫vs硬膜下血腫
国試的には、硬膜外血腫=凸レンズ状、硬膜下血腫=三日月状と暗記する。しかしながら必ずしもこうはならず、出血の具合や脳実質の形態次第で硬膜下血腫が凸レンズ状を呈したり、硬膜外血腫が三日月状に見えたりすることもある。硬膜外血腫と硬膜下血腫では予後も治療方針も異なるため、血腫の形状だけ見て判断するのは危険である。
急性硬膜外血腫は多くの場合骨折を伴い、骨折により硬膜上の中硬膜動脈や静脈洞が損傷することで生じる。中硬膜動脈が走行する側頭部、側頭頭頂部に好発する。受傷直後は症状がないかごく短時間の意識消失を来しすぐに回復するが、その数時間後に急激に意識障害が出現し増悪するという経過が典型的である。縫合線(冠状縫合、矢状縫合、人字縫合)を超えないのが特徴だが、好発部位である側頭部からある程度離れないと縫合線は存在しない。
急性硬膜下血腫は、頭部外傷により架橋静脈や脳表動脈の破綻が生じ硬膜下に血腫を形成する。受傷直後から意識障害が出現し、進行性に増悪する。脳実質の損傷を伴うことがあり、くも膜下出血や脳挫傷を伴っていないかも合わせて評価する必要がある。縫合線を容易に超えて広く進展していく。
外傷性頭蓋内出血
脳表や頭蓋骨のいくつかの所見は、微小な出血や骨折と紛らわしい場合がある。知識があれば判別は可能であり、まずはそういった出血や骨折の可能性のある所見を拾い上げることを重視すべきである。
硬膜下出血と見間違えやすい所見を以下に挙げる。
脳実質や頭蓋骨のpartial effectにより、脳表に小さな高吸収域を示すことがある。頭部外傷の場合は多くの場合thin slice像があるはずなので、thin slice像での再確認及びMRPで他方向からも確認し、再現性のある局在病変かどうかを判断する。
脳表の血管が、太さや走行によっては出血に類似することがある。これもthin slice像やMRPで血管との連続性を確認しよう。
大脳鎌、小脳テントの生理的石灰化も時に出血と紛らわしい場合がある。吸収値が100HUを超えていれば石灰化と判断してよいが、微妙な場合はフォローしても良いと思う。
髄膜腫は通常淡い高吸収を示す。ある程度のサイズになると内部に石灰化を有したり、腫瘤状の膨張性を示して血腫と判別できるが、局在と形態によっては出血に類似する。
横静脈洞そのものが血腫に見えるというパターンもある。横静脈洞は左右差が大きく、特に受傷部位と関連する場合は鑑別に挙がる。これまで1,2年に1回くらい、救急の担当医から横静脈洞を指して『血腫じゃありませんか?』という質問を受けており、病変と紛らわしい構造と言えるだろう。
他、中頭蓋窩、頭蓋底、大脳鎌沿いに限局した血腫は見逃しやすい。これらは直接的な受傷部位から離れた病変であることが多いと思われ、やはり頭蓋内全体にわたり注意して観察することが重要である。
頭蓋骨骨折
続いて骨折について。長管骨のポッキリと折れて偏位する骨折と異なり、扁平骨である頭蓋骨の場合は偏位がほとんどない小さな骨折線のみであることも多いため、慎重な読影と解釈が必要である。
読影でいつも骨折と紛らわしいのが、縫合線や頭蓋骨内を走行する血管の血管溝である。受傷部位との位置関係、左右差、血管としての連続性を評価して判断する。縫合線は概ね左右対称だが、非典型的な例もあることを知っておく。前頭骨正中の前頭縫合は通常2歳までに閉鎖するが、時に閉鎖せずに残存する。前頭骨正中に立派な線が走行する場合は前頭縫合の残存を疑う。他に骨折と間違われやすい縫合線としては、横静脈洞近くで後頭骨を横走する横走後頭縫合(mendosal suture)、および鼻骨前頭縫合(nasofrontal suture)が挙げられる1)。
前頭部、後頭部、鼻根部、いずれも外傷部位として稀ではなく、これらの縫合線の知識が役に立つ。
(図1-3-1 骨折と間違えやすい頭蓋骨の縫合線)
骨折を示唆する所見として、頭蓋内のairも有用な所見である。副鼻腔や乳突蜂巣の骨折により、頭蓋内にairが混じることがある。せっかく骨条件にしているので、骨だけではなく頭蓋内のairにも注目したい。
眼窩内の骨は薄く、顔面の受傷で骨折を来しやすい。眼窩内側の骨壁(篩骨紙様板)は5-10%の頻度で部分的に欠損し、篩骨洞への陥没様の変化がみられる。骨折と紛らわしく、骨折線の有無や眼窩内のairの有無を含めて判断する。
(図1-3-2 篩骨紙様板の欠損)
以上を念頭に頭部外傷の画像診断を行うが、自らが救急対応中に読影する場合、時間や集中力が限られているために小さな出血や骨折を見落とす可能性は常に存在する。最大限注意を払って読影しても見逃すことはあるため、帰宅させる場合は見逃しの可能性も踏まえて患者に説明している。『今はこれが精一杯』の精神で、翌日に違う読影結果が出る可能性や、自宅で症状が変化した際にはすぐに病院に連絡するように説明するのが無難である。
1). https://funatoya.com/funatoka/anatomy/Rauber-Kopsch/1-14.html
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