MENU

1-2.  脳出血【画像診断随筆】

脳出血は脳梗塞と並ぶ急性期脳血管障害である。梗塞の評価にはいま一つ限界がある頭部CTでも、急性期脳出血は鋭敏に検出することができる。CTで出血の有無、局在や性状の評価を確実に行えるようにしておきたい。

脳出血は大きく外傷性と非外傷性に分類できる。外傷性の脳出血は頭部外傷の章で記載する。

目次

非外傷性の脳出血

非外傷性の脳出血の8割以上は高血圧性で、それ以外は動脈瘤破裂、アミロイド血管症、血管奇形などがある。高血圧の影響を直接受ける、すなわち中大脳動脈M1や後大脳動脈近位から分岐する深部穿通動脈の灌流領域である被殻、視床、小脳、橋が出血の好発部位である。表在穿通動脈の破綻による皮質下出血も比較的よくみる。穿通枝は中膜の平滑筋層が薄く外弾性板を欠く脆弱な構造であり、破綻しやすい。深部穿通動脈領域は梗塞もしやすく、何かと面倒ごとの多い領域である。

CTでの評価は、まず出血が存在するかどうかである。数mm以上のサイズであれば容易に評価できるが、ごく小さな病変の可能性も考え、皮質も含め念入りに観察する。基底核領域(淡蒼球)や小脳(歯状核)では生理的石灰化と鑑別を要する場合もある。石灰化の程度は時に左右差があり、出血と紛らわしい場合がある。石灰化と断定できない高吸収域や石灰化の好発部位以外の微小な高吸収域は、出血の可能性があると判断する。皮質下病変の場合、灰白質が元々軽度高吸収であるため、部分的に出血のように見えることもある。薄切り、厚切りスライス共に参照して、本当に出血らしいかを評価する。

基底核の出血が大きい場合、出血源が被殻なのか視床なのか迷うことがある。周囲の圧排性変化を加味して出血源を考える。それでも判別できないような大きな出血の時は、○○~○○に広がる出血などと表現する。血腫による正中偏位や脳ヘルニアの有無も治療方針に関わるため記載する。

出血が脳実質に留まるか、くも膜下に穿破しているかも重要である。脳出血の主な症状は病変部位に応じた突然発症の神経症状と頭蓋内圧亢進所見で、くも膜下への穿破があれば髄膜刺激症状が加わる。共同偏視が出現する病変部位や方向は何度見ても覚えられないので、今回は触れないこととする。

脳表付近の出血の原因には脳アミロイドアンギオパチー(CAA)がある。高血圧の既往のない高齢者の場合はCAAの可能性を考え、MRIのT2*WIで皮質、皮質下にmicrobleedsが散在していれば積極的に疑う。加齢により大脳皮質内の小動脈にアミロイドβが沈着し、血管の機能異常をきたし破綻の原因となる。皮質下出血の原因として高血圧性とCAAがオーバーラップする部分もある。

その他、非好発部位の出血や若年者での出血の場合、二次性の脳出血(動静脈奇形、脳腫瘍、静脈洞血栓など)の可能性を考え、MRIを含めた精査を行う。

非外傷性のくも膜下出血の多くは脳動脈瘤の破裂である。嚢状瘤部分では、中膜平滑筋と内弾性板が消失し、内膜と外膜が一体化した像を示す。血管分岐部には中膜を欠く部分があり、ここに圧が加わることにより嚢状瘤が形成される。Willis動脈輪の血管分岐部に嚢状瘤が好発するのはこの組織学的特性と血行力学的影響のためである。紡錘状動脈瘤は機序が異なり、動脈硬化性変化や動脈解離により生じるとされる。

(図1-2-1 Willis動脈輪での動脈瘤の好発部位)

多くの場合くも膜下出血はCTで容易に診断できるが、少量の出血の場合は吸収値上昇がわずかであったり、左右差を見比べることに夢中なあまり、脳底槽の対称性の出血に気づかないなどということもあり、注意が必要である。出血の局在により、脳動脈瘤の局在が大まかに推定できる。

動脈血流のくも膜下腔への流入により急激な頭蓋内圧上昇を来し、脳幹の圧迫や脳実質への血流低下により突然死のリスクもある。

MRAの普及により、小さいうちに動脈瘤が見つかることが増え、巨大動脈瘤を見つける機会は少なくなった。逆に言うと2mm程度の動脈瘤をMRAで正確に指摘し、フォローしなければならない。再構成画像である程度大きな動脈瘤の有無を確認し、続いて元画像を丁寧に観察し、特に好発部位に小さな瘤形成がないかをチェックする。元画像での確認が重要であり、枚数が多くて面倒だからと言って省略してはいけない。

MRAで微小な動脈瘤と鑑別を要するのが、血管分岐部の漏斗状拡張(infundibular dilatation)である。

(図1-2-2 動脈瘤と漏斗状拡張)

若年者で非外傷性のくも膜下出血を見た場合、脳血管奇形やもやもや病の可能性を考える。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

30代医師。放射線画像診断をやりながら病理診断もしています。

コメント

コメントする

目次